こんにちは。
わたしスタイルLABOのacoです。

脳卒中の後遺症として残る、麻痺やしびれ。

発症後しばらくは、自分の病名すらわかっていなかったので、手足が動かないのもそのうち「元の戻る」と思っていました。痺れもいつか消えて「治る」だろうと。

当事者となった今、「治る」「戻る」という言葉を見ると、(厳密にいうと違うんだけどな…)と少しだけ違和感が。

なぜなら、脳卒中で壊れた脳の細胞は元には戻らないから。

この事実だけ知ると、かなり絶望的に思えるかもしれません。
わたしも脳卒中治療ガイドラインの「ブルンストロームステージ」でステージⅠと言われ、最初はピクリとも動きませんでした。

でも、今では杖や装具を使って歩けるし、箸や鉛筆は使えませんが補助手として右手も動きます。

損傷した部位が元のような働きをすることはできないだけで、別の脳細胞がその機能を補い、再び動かせる場合もあります。(脳のどの部位を損傷したのか、また損傷の大きさなどにもよって異なるので、一概には言えませんが…)

今回は、当事者として、そして伝える立場として、大切にしている言葉の意味を整理してみようと思います。

「治る」と「戻る」は、少し違う

まずはよく使われる言葉から。

■ 治る(なおる)

  • 病気や症状が完全に消えること。
  • 医学的には「治癒(ちゆ)」と呼ばれます。

脳卒中の原因である高血圧や心房細動などの病気は、薬や生活習慣の改善で「治る」ことがあります。

でも、壊れた脳の細胞は元に戻ることはありません。つまり、脳卒中の「後遺症」は完全には「治らない」のです。

■ 戻る

  • 発症前の状態に戻ること。

手足がまた動くようになると、「戻った」と思われるかもしれません。
でも実はそれ、壊れた脳の代わりに、別の脳の部分が働いてくれているだけなんです。

脳の「代償機能」と言います。
だから正しくは、「元に戻った」のではなく、「別の方法でできるようになった」という表現のほうが正確かもしれません。

「回復」と「改善」の違い

リハビリではよく「回復期」「維持期」という言葉が使われます。

■ 回復

  • 元の状態に近づいていくこと。
  • 脳卒中では「発症から約半年間」が回復のピークと言われています。

この時期には、壊れた脳の一部が周辺の細胞に助けられて働きを取り戻す「自然回復」が期待できます。

■ 改善

  • 少しずつ、今の状態が良くなること。
  • 回復期を過ぎても、工夫やリハビリで「できること」が増えること。

わたし自身、発症から約3年が経っていますが、「できる」が増えるたびに「改善されてるな」と感じています。

もう「回復期」ではないけれど、「改善」は続いている。

だから今は「回復」よりも「改善」という言葉を選ぶようにしています。

たとえば、がんには「寛解」という言葉がある

「寛解(かんかい)」という言葉をご存知でしょうか?
これは主にがんや慢性疾患などで使われる言葉で、「病気が消えたように見えるけれど、再発の可能性はある」という状態を指します。

「完治(もう病気はない)」とは違います。
脳卒中の後遺症も、完治ではなく「症状が落ち着いている」「改善が続いている」といったグラデーションのある表現をする必要があると思うのです。

愛を持って、I(アイ)メッセージで

また、日常会話の中で、意図せず当事者を傷つけてしまう言葉もあります。

「治らないんでしょ?」
「努力が足りないんじゃない?」
「前みたいに戻れるといいね」

何気なく言った言葉、意図せず使った言葉、励ましのつもりだった言葉…。
言った本人はそうでも、実は傷つけている場合も。

「治らないんでしょ?」
 ーー→絶望を与える
「努力が足りないんじゃない?」
 ーー→責められているように感じる
「前みたいに戻れるといいね」
 ーー→戻れない現実に落ち込む

こんな思いやりのある「I(アイ)メッセージ」で、伝えられたらいいですね。

「治らないんでしょ?」
 ーー→時間はかかるかもしれないけど、よくなるよう祈ってるよ。
「努力が足りないんじゃない?」
 ーー→がんばってるよね。その変化すごいと思う。
「前みたいに戻れるといいね」
 ーー→新しい自分のスタイルを焦らず一緒に見つけていこうね。

わたしが大切にしたい言葉

「治る」「戻る」じゃなくていい。
「完全」じゃなくて、「変化」でいい。

  • 「できないこと」があっても、「できること」がある。
  • 「前の自分」には戻れないけど、「新しい自分」と出会える。
  • 「治らない」と言われても、「改善」は続いていく。

そんなふうに思える言葉を選んでいけたらなと思うのです。
1日1ミリの改善を目指して。

最後に

経験上、言葉は、希望にも、呪いにもなります。
医療従事者、家族、支援者、そして当事者自身が、現実を否定せず、でも未来を閉ざさない言葉を使えたら——。

そんな願いを込めて、そして自戒も込めてこの記事を書きました。

※この記事は、脳卒中を経験した当事者の立場からの視点です。
専門的な医療判断は、医師やリハビリ専門職の方にご相談ください。