入院生活ってヒマでしょ?
「入院生活ってやることなくてヒマでしょ?」
最初のころは友達や家族が暇つぶしに本でも差し入れようかと言ってきた。
急性期病棟にいた最初の2週間はLINEの文字も見るのがやっとで理解が追いつかなかったし、返し方もわからず途方に暮れる始末。正直、それどころじゃなかった…。
出血が落ち着いて脳の腫れが引き、簡単なことなら理解が追いつくようになったが、脳の疲労感が半端ない。小説のような長文を長時間に渡って読むなんてどう考えても無理だった。
電話で話しててもしばらくはすぐに言葉が出てこなかったり、呂律も回らない状態が続いた。
手足が麻痺して動かない、加えて顔もひどく痺れるし。
そんな症状が出ているのは、脳が出血によって大きなダメージを受けたから。それを理解してもらうのはなかなか難しい。
整形外科的な怪我とは、全く違うものだということを。
脳が追いつかない
急性期病棟にいた頃は、1ヶ月が過ぎだいぶ回復してきたように見えても、リハビリメニューを最後までこなせず途中で切り上げることもたびたびあった。
担当の理学療法士さんには「まだ脳が腫れてる状態だから仕方ないよ」と言われていた。
やる気はある。でも体力がというよりも、脳が追いつかない状態なのだ。
何をするにもすごく疲れたし、すぐに電池切れの状態になってしまう。
言語聴覚療法では、数字を使ったテストをすると頭から顔にかけて右半分だけが、カーッと熱くなり思考を邪魔した。ごくごく簡単な数字並べのような問題でも。
ちなみに倒れてから半年経った今でも疲れやすさはまだ残っている。
日中電池が切れてしまうことはなくなったが、消灯時間(21時)を待たずして寝てしまうことも少なくない。
その代わり朝も早いが。
だいたい5時には起きている(病棟の起床は6時)。
入院生活すべてがリハビリ
8月中旬、ようやく回復期病棟に移動することができ、急性期病棟では許可されていなかったトイレを含む病棟内の移動が、初日に自立になった。
まだ車椅子ではあったものの、看護師さんを呼ぶことなく自分の好きな時にトイレに行ったり自動販売機で飲み物を買ったりできるのは、本当にうれしかった。
ほどなくしてシャワーが自分一人で使えるかのチェック3日間を受け、無事シャワーも自立になった。
シャワーが自立になると毎日入れるのだ!
急性期病棟では週に1回の上、看護師さんに手伝ってもらわねばならなかったので、これは心底嬉しかった。
夏場の週1シャワー+週1清拭(タオルで体を拭くこと)はさすがに厳しい…。
また病院着と紙パンツのレンタルもやめた。
トレーニングウエアを着用し、下着も持ってきてもらい、全て毎日取り替えた。
それに伴い洗濯も全部自分でするようになった。
回復期病棟では患者の病状にはよるが、危険がない限り生活の全てがリハビリなのだ。
急性期では安全性重視だったが、積極的に自分でできることは自分でしましょうという意図が伺えた。
片手じゃできないとか、歩けないから無理と決めつけず、どうやったらできるか?チャレンジしてやってみる。おかげでナースコールを押さずになんでもできるようになった。

洗濯ももちろんリハビリです!
着ているものは毎日着替えるので、3日分の洗濯物を一度にするようにしているが、これは本当によいリハビリになった。
麻痺手も左手の補助として、できるだけ動かすようにしている。
ただ、最初は左手だけで全てやらねばならなかったので大変だった。
車椅子で洗濯機まで洗濯物を運び、洗濯機に寄りかかり立ち上がる。
洗濯物を洗濯機に入れ、洗剤を入れフタを閉めコインを入れる。
洗濯が終わったら取り出し、洗濯物を車椅子で運び乾燥機に移す。
病院の洗濯機も乾燥機もかなり古いので、洗濯が終わった時点で洗濯物は絡まるしシワだらけで、全て拡げてから乾燥機に入れなくてはならなかった。
乾燥したら、今度は畳むという作業が待っている。
これまた片手では難儀する作業だった。
左手しか使えない状態だったし、この先どこまで回復するのかは先生たちでも未知数で、右手も必ず使えるようになるとは限らない。万が一そうなったとしても生きていける生活力をつけなくちゃいけない。そう思っていた。
幸い今は右手も多少動くようになり、少しずつ左手のお手伝いをするように。
まだまだ握力もなく、細かい動きはできないし、使えるという状態にはほど遠いが…。
動くだけでも御の字である。
自立にはチェックのクリアが条件
色々なことが自立(看護師さんの介助なしに一人でできる)ようになったが、自立にはチェックをクリアする必要がある。
チェックするのは、担当療法士さん2人と看護師さん1人の3人。一人ずつ3日かけて行う。
これに合格し、最終的に主治医のOKが出ないといけない。
例えば、自分はもう杖なしでも歩けるからと、杖を持たずにトイレに行ってしまい怒られているおじいちゃんとかよく見る。
フリーハンド(杖なし歩行)が自立になるには、面倒臭くてもチェックと主治医のOKがいるのだ。
わたしもシャワーのチェック、車椅子でのエレベーターのチェック、杖でのエレベーターと売店まで行けるかのチェック、病棟内のフリーハンドのチェック…とその度に色々なチェックを受けてきた。
看護師さんたちも常に人員不足な中、そのための時間を割かねばならず大変だと思う。
急性期病棟とは、また違う大変さがあるように思えた。

入院時間を無駄にしたくない
療法士が関わるリハビリの時間は、どんなに長くても1日3時間までと決まっている。
3時間もやってもらえるのはありがたいが、入院中はせっかくリハビリに集中できる環境があるわけである。それを無駄にするのはもったいない。
リハビリ外の時間は自主練として活用し、リハビリで行なったメニューの復習や療法士さんに教えてもらった自主練用のメニューをこなしている。
ここに移ってきた最初の頃は1日30分程度だったが、今ではリハビリの時間をはるかに超えている。
脚の自主練で朝昼夕合わせて2時間、手の自主練で夕晩2時間半。毎日だいたい4時間半は自主練の時間に充てている。
このnoteを書くという作業も実はタイピングやパソコンを使う練習だったりするので、極力不自由な右手を使う。
思い通りにキーボードは打てないし、感覚麻痺があるため右手の動作については視覚で補完しないと正確な場所がわからず、通常時の2倍から3倍の時間がかかる。
脚の自主練然り。自分の中には、健常な頃のイメージ(当たり前のことが当たり前にできていた)があるので、非常に厄介だしもどかしい。けど、ごちゃごちゃ考えている暇はないので、とにかく毎日身体を動かしてる。
病棟一の自主練の鬼と化す
とにかくストイックに自主練メニューをこなしているので、気がつけば病棟一の自主練の鬼と化していた。
高齢者が多くそこまでやる人もいないというのもあるが、比較的若い40代〜60代の中でも一番時間を費やしている自負はある。
わたしはその世代の中でも後遺症が重い方なので、人の何倍も努力が必要だし、発症してから約半年は回復が大きく望める期間なのでがむしゃらにやるっきゃないのだ。
のんびり、ゆっくり、じっくりやってたら機会を逃すことになりかねない。
もちろん半年以降も改善が望めないわけではないけど、入院期間が過ぎたら今のような環境でリハビリは受けられなくなる。
何年か後に今日を振り返った時、やれることはやったと自分で納得したい。
入院生活も残り1ヶ月。悔いの残らないように1日1日精一杯過ごしたいと思う。
最初の質問に戻るが「入院生活ってヒマでしょ?」は、今は明確にNO!と答えたい。
え〜っと、、、時間がぜんぜん足りないです笑