「諦めなかった人」の美談の裏で

こんにちは。わたしスタイルLABOのacoです。

長嶋茂雄さんが6月3日に亡くなられました。
89歳でした。

長嶋さんは、2004年に脳卒中(脳梗塞)を発症し、重度の後遺症を負いましたが、退院後も根気よくリハビリを続けられていたと報道されています。

わたしは長嶋さんの現役時代は過去の映像でしか知りませんが、長嶋さんが大変な努力家で、不屈の精神でリハビリに取り組まれていたことは間違いありません。

同じ病気を患い、後遺症を抱えるものとして、尊敬します。
野球人、そして国民的な存在としても、本当に素晴らしい方でした。

ただ、リハビリに関する一部報道の内容には、少しだけ違和感を覚えたのです。

「医師の判断で継続できる」医療保険リハの現実

報道を見ていると、長嶋さんが通われていたリハビリは、自費リハや介護保険でもなく「医療保険」でのリハビリのように見受けられました。

医療保険でのリハビリは、原則として最長180日とされています。
ただし、「リハビリを続ければ回復の見込みがある」と医師が判断すれば、それ以降も継続が可能です。

ここで重要なのが、「医師の判断で」という点です。この判断には、大きな幅があり、病院の方針や主治医の考え方、病院の運営事情などが影響します。

なので、誰もが長嶋さんのように、長期的に医療保険でのリハビリを受けられるわけではないのです。むしろ、ある程度時期が来たら、打ち切りになる人が多いのではないでしょうか。

諦めたわけじゃなく、諦めさせられた人たち

「普通の人なら諦めるのに、長嶋さんは諦めずリハビリを続けた」
といった内容の報道があり、胸がざわつきました。

「まだ諦めたくいないけど、制度上リハビリが続けられず諦める」人たちも多くいるからです。

かくいうわたしも倒れてから来月で3年。
医療保険のリハビリがいつまで続けられるかわかりません。

昨年から作業療法(OT)は終了し、理学療法(PT)も隔週になりました。
ありがたいことに、主治医の先生は「何年経っても回復の見込みはあるから、がんばろう。」と言ってくださいます。

一方で、療法士さんたちからは「そろそろ…」と、やんわりプレッシャーも。

もちろん3年も続けてこられたことには、とても感謝しています。
医療保険で、3年も続けているのは長い方だと思うので。

リハビリ病院としては、新しい患者さんの受け入れも必要ですし、長く通っている人に割ける時間が限られてしまうのは理解できるので。

「じゃないほうの人たち」を忘れないで

発症後半年間は回復が目覚ましいのですが、回復期を過ぎると、回復は緩やかになります。

リハビリの効果も目に見えにくくなるもの。
でも、「回復は1日1ミリ」という言葉があるように、年単位で少しずつ改善している実感はあります。

毎年、脳卒中でたくさんの人が倒れる中、その一人ひとりが、何かしらの後遺症と向き合い必死に生きています。

限られた制度の中で、リハビリをやめるという選択を迫られただけで、「イコール回復を諦めた」とは限らないことを、ぜひ知ってほしいのです。

繰り返しますが、わたしは長嶋茂雄さんを批判したいわけではありません。
長嶋さんは間違いなく偉大な方です。

ただ、その素晴らしさを伝えるために、「じゃないほうの人たち」を下げるような報道には、違和感を覚えます。
リハビリを続けたくても続けられなかった、無念を抱えた人たちがいるという現実も、どうか忘れないでください。

(写真はイメージです)

終わりに

長嶋茂雄さんのご冥福を心よりお祈り申し上げます。

長嶋さんは、日本プロ野球の歴史を語るうえで欠かせない存在です。
その華麗なプレースタイルや、ユーモアと情熱にあふれる監督としての姿勢は、多くの人々に夢と感動を与えました。

脳卒中という大きな困難に直面してからも、決して諦めず、リハビリに取り組まれたその姿勢は、多くの脳卒中当事者にとっても希望の光だったと思います。

もちろん、わたしにとっても。

野球人としてだけでなく、一人の人間としても、不屈の精神を貫いた長嶋さんの姿は、これからも語り継がれていくでしょう。
偉大な功績に、心からの敬意と感謝を捧げます。ありがとうございました。