こんにちは。わたしスタイルLABOのacoです。
昨日、私はMacBookをリュックに入れて外に出かけました。
たったそれだけのこと。誰かにとっては、ほんの些細な日常の一コマかもしれません。でも、わたしにとっては、約3年ぶりの大きなチャレンジでした。
脳卒中で倒れる前は、MacBookとともにどこにでも行きました。仕事をしていた頃はパソコンが生活の一部であり、わたしの仕事道具であり。まさに「手の延長」のような存在でした。
それが、あの日を境に一変しました。
発症前の“当たり前”は、もう“当たり前”ではなくなった
3年前、わたしは脳卒中で倒れました。
命は助かったものの、大きな後遺症が残り、今も私の身体と脳は思うように動きません。右半身に麻痺があり、歩くにも杖が必要になりました。高次脳機能障害で、言葉もうまく出てこなくなり、頭の中が混乱しやすくなりました。
MacBookを片手に移動する──そんな日常の何気ない行為が、わたしにはもうできなくなっていました。
外出先で仕事をすることも、電車を乗り継いで予定通りに動くことも。途中でトイレに行くタイミングすら、何度計算しても不安になる。そのため2倍3倍の時間を想定し向かう。そんな状態がずっと続いていました。
それでもこの3年間、「回復は1日1ミリ」という言葉を信じて、とにかくリハビリを続けました。するとほんの少しずつ、できることが増えてきて。
ひょんなことからMacBookを持って出かけるチャンスが巡ってきたのです。
そして、ついにその日がきた
昨日は、午前中にリハビリ病院での定期リハビリがありました。
いつもならそれだけで一日が終わるくらい疲れるのですが、そのあとどうしても行かねばならない場所がありました。
都内某所。久しぶりに、無償ではありますが、昔の仕事の延長のようなことをさせてもらっている場所でした。パソコンがあったらなぁ…と思う場面も多く、でも重さを考えると運べる気がしない。
ただ昨日は体の調子も良く、チャレンジしてみる気に。
そこでMacBookをリュックに入れ、家を出ました。
リュックの重みで後ろに引っ張られバランスを崩しそうになる中、杖をついて、電車に乗って。体幹にも麻痺があり、それでなくとも体がグラグラなのです。そんなわたしにとって、昨日は大きな冒険でした。
気を張っていないと転びそうになるので、ずっと神経は張りつめっぱなし。
でも、やってみたかったんです。
昔のように、資料を前に人と話したかった。
昔のように、自分の知識や経験を生かしたかった。
昔のように、誰かの役に立ちたかった。
2万歩近くの移動。そして、限界のその先で。
リハビリ病院から移動して、相談業務(といってもボランティアですが…)を終え、帰宅しました。
夜寝る前にスマホの歩数計を見たら、その日の歩数は19,844歩。
普段から1万歩を超えることも珍しくはなく、ここ最近は平均12,000〜3,000歩くらい歩いていましたが、ここまで歩いたのは久しぶり!
しかもただ移動しただけでなく、脳をフルスロットルで動かしました。
まさに満身創痍。もう、帰宅した時は、くたくたでした。
脳が使い果たされた感じで、思考がぼんやりして、ろれつも怪しかったし、体は鉛のように重かった。
とりあえず洗濯物を取り込んでたたみ、子どもたちの夕飯を準備し、後片付けが終わる頃には、脳がシャットダウン状態。閉店ガラガラ。
それでも、気持ちは満ち足りていました。
もうできないと思ってたことが、
「やれたんだ」
という感覚とともに…。
このことは、これからもずっとわたしの中に残ると思います。
ふつうが、ふつうじゃない。だからこそ、特別な一歩になる
脳卒中になる前のわたしは、MacBookを片手に持って、カフェやクライアント先を飛び回っていました。パソコンが使えること、考えること、動くこと、話すことが、すべて当たり前だと思っていました。
でも今は違います。
「考える」ことだけでも負荷がかかるし、「動く」には段取りがいるし、「話す」のにもエネルギーが必要です。そして、パソコンを「持ち歩く」なんて、それ自体が一大イベントです。
だからこそ、昨日のような1日にはとてつもなく大きな意味があります。
完全に元通りにはならなくても、
少しずつ、「わたしらしさ」を取り戻す。
少しずつ、「できる自分」と出会い直す。
はたから見れば当たり前のこと、当たり前の1日でも。
その一歩を踏み出せた自分を褒めてあげたい。
MacBookは、ただの道具じゃない
わたしにとって、MacBookはただのパソコンではありません。
仕事をしていた頃はまさに相棒でしたが、今は
「かつての私」を思い出させてくれるもの。
「また前に進めるかもしれない」と思わせてくれるもの。
「できないことはあるけれど、それでもできることもある」と示してくれる象徴。
そんな存在になっています。
これからまた、少しずつ使っていけたらいいな。
少しずつ、「書く」「考える」「伝える」を、自分なりのペースで続けていけたらいいな。
ありがとうの気持ちも込めて。
最後に
病気をしてから、「ふつう」に戻ることを目指して、たくさんのリハビリや工夫を重ねてきました。
でも、もしかしたら「前と同じように生きる」ことじゃなくて、「今の自分でできるふつうを作る」ことが大事なのかもしれないと、最近思います。
MacBookをリュックに入れて、19,844歩を歩いた日。
それは、わたしが「新しいふつう」に出会った記念日だったのかもしれません。