こんにちは。わたしスタイルLABOのacoです。
わたしは10代で免許を取り、49歳まで30年間、大きな事故もなく運転を続けてきました。
本当に色んな場所に行きました。
学生時代は合宿や試合へ、卒業してからは友だちと旅行へ、子どもが生まれてからは子どもたちを連れて…運転とともに、語り切れないくらいたくさんの思い出があります。
振り返ると、運転はわたしの生活の一部、人生の一部でした。でも、もう運転することはありません。
3年前に発症した脳卒中で右片麻痺になり、加えて高次脳機能障害があるため、運転の再開を断念することになったからです。
「運転NG」の診断
高次脳機能障害により、主にわたしには注意障害・記憶障害・遂行障害・構音障害などがあり、軽度の失語も抱えています。
特に注意障害と記憶障害は顕著で、運転再開に向けて行った検査の結果、「運転は不適切」と判断されました。
診断書は公安委員会に提出できるレベルにはならず。免許の更新は不可能になりました。
シュミレーターが映し出した現実
運転技能のシュミレーターでは、右片麻痺のため左手ハンドル、左足アクセルブレーキで臨みました。
しかし結果は厳しいものでした。
・左折時に反対車線にはみ出す
・細道で対向バイクと接触
・右折時に自転車にぶつかる
・標識を見落とし、進路を失う…など
いくつものミスや重大な事故を起こしました。
これが実際の道路だったらと思うと、ゾッとします。
「できていたこと」が、できなくなるということ
健常者の頃は全く気づきませんでしたが、運転という行為は、まさにマルチタスクの連続。
アクセルの踏み具合、ハンドル操作、標識確認、ウィンカー、信号、歩行者や車への注意…。
これらを同時にこなすことが、以前は「普通」でした。
でも今のわたしは、その「普通」ができません。
脳がタスクの多さに全く追いつかず、まるでショートしたような感覚になります。少しの操作で、すぐに疲れてしまう。そう感じることが多々あり、あらためて思いました。
運転には、こんなにもたくさんの“注意力”が必要だったんだ。
運転に必要な「注意機能」とその障害
高次脳機能障害の中でも、「注意機能」の障害は運転に直結します。
実際にわたしが直面した困難を通じて、注意にはいくつかの種類があることを知りました。
▶︎ 持続性注意(集中力を保つ力)
運転中、ずっと集中を続けるための力。
わたしはこの集中が途切れやすく、車線からはみ出したり、スピードを維持できなかったりしました。
▶︎ 分配性注意(同時に複数のことをこなす力)
信号を見ながら歩行者に気をつける。対向車に注意しながら右折する。
今ではこうした“複数のタスク”を同時に処理することができません。
▶︎ 選択性注意(必要な情報を選び取る力)
「この標識が大事」「あの歩行者に注意を払うべき」など、重要な情報を選んで反応する力。
わたしは標識を見落としたり、歩行者の存在に気づけなかったりします。
▶︎ 転換性注意(注意を素早く切り替える力)
たとえば、信号が青から赤に変わったとき、瞬時に判断して止まる。
わたしは切り替えに時間がかかり、行動が遅れてしまうことが増えました。
「見えない障害」だからこその難しさ
わたしには肢体障害もあります。でも肢体障害と高次脳機能障害、どちらがつらいかという話ではありません。どちらにもつらさや大変さはありますから。
ただ、高次脳機能障害は目に見えにくい障害です。
この障害についての不安を発言するたび、このような言葉を言われてきました。
「よくあることだよ」
「歳のせいじゃない?」
「気にしすぎ」
「そんなの誰でもあるよ」
「こんなふうに考えたら?」etc…
そうした言葉は、時に励ましのつもりでかけられたのかもしれません。
でも、当事者としては、「なかったこと」にされるようで、とてもつらいものです。
検査の結果、数値で明確に「運転不可」と診断されているにもかかわらず、同じ脳卒中経験者ですら、理解が追いつかない現実があり、もどかしい思いをしました。
「伝える」ことをやめないわけ
以前、高次脳機能障害についてのセミナーに参加した時のこと。
講師の脳神経外科の医師曰く
「認知症は徐々に進行する病気。高次脳機能障害は“ある日突然”、脳機能に打撃を受けて発症する。でも基本的な症状は同じです。」
わたしは記憶障害のために、数日後にはその日あった出来事や、自分がやったことを忘れてしまうこともあります。
本当に「認知症みたい」と思う瞬間も。
そんなわたしが発信を続ける理由、それは
高次脳機能障害とは何か。
「見えない障害」が日々の生活にどう影響するのか。
そのリアルを知ってもらいたいから。
最後に
30年間運転してきたわたしが、運転を手放すという決断に至るまでに、どんな葛藤があったか。
そして、それを理解してもらうことが、どれほど難しいか。
でも、わたしは諦めず、伝え続けます。
「見えない障害」だからこそ、知ることで優しさが生まれると信じて。
この投稿が、誰かの理解や共感につながればうれしいです。
また、同じような障害を抱える誰かの「ひとりじゃない」と感じるきっかけになれたらいいなと願っています。